プロカバーの話

私といしはらくんは、付き合って1年と4ヶ月間一度も喧嘩をしたことがない。これは、いろんな人に自慢できること。

 

私といしはらくんが喧嘩にならないのは、いしはらくんが大人だから。

多少のわがままなんて痛くも痒くもないような、そんな広い心で接してくれるおかげで、私自身わがままを言う気にもなりません。そんないしはらくんの前ではきちんとしていようと思えるから。

そして、いしはらくんはいつだって正しい。いしはらくんの考えには、賛同できてしまいます。考え方が似ているだけなのか、盲目になってしまっているのか、わかりませんが、大概そうだなぁと思えることばかりです。

 

しかし、たった一度、いしはらくんに泣かされたことがあります。それも大号泣。

話題は、プロカバーについて。

 

プロカバーというのは、プロのアカペラグループの楽曲をカバーすること。

そもそも学生アカペラではオリジナル曲を演奏するバンドがまだほとんどありません。ほとんどのバンドは既存の曲をアカペラアレンジにするか、アカペラの楽曲をコピー・カバーするかしており、後者がプロカバーバンドにあたります。

私はアカペラを始めてすぐの頃から、プロカバーをしないことを宣言していました。自分でない誰かが作った曲を演奏し、同じようなことをしている人が自分たち以外にもたくさんいる…それは音楽を自己表現とする私の姿勢に背いていたからです。

ただ、2年間アカペラをする中で、楽器や他の音楽と比べたアカペラの限界みたいなのが見え、自分の中で見切りをつけました。アカペラに求めていたものはアカペラで手に入らない。ならばアカペラはアカペラとして楽しみたいという思いが強くなり、まずは誰かに見せる音楽ではなく自分のためにプロカバーをしてみようという決断に至りました。

そして、いしはらくんに決意表明。

以前からプロカバーのメリットを話してくれたり、自身もプロカバーバンドを組んでいたいしはらくんはとても喜んでくれました。ようやくここまできたか、と。

 

話は続きました。

ここからはもう、おそらく私が気に障ったことばかりが記憶に残っているんですけど、内容としては

・気付くのが遅かった

・否定していないでやれば自分のためになる

・嫌がる理由も分かるけれどそれでは視野が狭い

こういう話でした。

プロカバーこそがすべきアカペラで、私はそれを今まで偏った価値観によってしないできた。そう言われたように感じました。

 

そうか、私のポリシーは、視野を狭めていたのか。

言われて初めてそう気付きました。

 

私は、学生アカペラ界の、他人の褌で相撲を取るようなところが本当に納得いかない。自分たちが楽しむためにプロの真似事をするにとどまらず、我が物顔でやってそれが評価される音楽が許せない。でも、やっぱりプロはすごい。プロの曲から学ぶものはたくさんある。だからやってみよう。でもやってみるだけ、これは勉強のため。

私にとってプロカバーは、それだけの決意と妥協の上にありました。

 

自分の中の譲れない想い。
音楽は自己表現。やりたいことをやるだけなら自己満足で、それを通して聞き手の心を動かせて初めて音楽になる。
そんな確固たる意志を持って私は音楽をしてきました。

 

だから、本当に悔しかった。損していると思うわれているのだから、多少は損をしているのだと思う。アカペラだけを見れば。

でも、私は今アカペラをしているんです。アカペラだけを音楽に選んでいるんです。そのアカペラだけ見たときに、アカペラ以外で培った自分自身の考えは邪魔をしていました。

その日はウィンターライブの日でした。私はその日、歌いたくて入ったサークルのいちばん大きなライブで歌えなかった。それもこれもきっと、このくだらない凝り固まった考え方のせいなのだと思った。

自分自身の強い想いを、くだらないとさえ思ってしまったんです。

こんなに悔しいことってあるんだなぁと思いました。

 

泣かされたなんて書いてしまったけれど、私は勝手に泣いたんだと思います。今の自分がいる環境を考えたら、いしはらくんが正しいに決まってる。いしはらくんはあの日もやっぱり正しかった。あれは悔し涙。

 

郷に入っては郷に従え、という言葉。私は自分の元いた場所が好きすぎて、ずっと今の環境に反発していました。それは今でも変わらないけれど、素直に従った人たちはとっくに楽しく音楽をしている。そんな人を羨ましくも思います。

同じ環境にいて、楽しめると楽しめないとでは楽しめるほうがいいに決まってる。

ただ、譲れないものだってあるんです。私はずっと、このバランスを取れずにいたんだと思います。

 

昨日、宣言したプロカバーバンドの初練習でした。原曲通りに歌うだけで、めちゃくちゃハモります。こりゃみんなやりたがるわ、って感じ。

こんなこと言うとみんなは、だから言ったのに〜って言うんだろうなぁ。

そんなことはやる前からとっくにわかってたよ。その楽しみを我慢してでも貫きたい思いがあったんだよ。

 

あのラミーが、遂にプロカバーに手を出した。

これは、大事件です。私にとっての。

誰よりも強い意志を持ってカバーしてみせる。今後に活かせる経験にしてやる。